2011年11月21日月曜日

『ブーメラン!』ユーゴ民族紛争-スロヴェニア警句集

『ブーメラン!』 ---世紀末の星を行く

ユーゴ民族紛争-スロヴェニア警句集


イヴァン・ツィマーマン著
田原 正三 訳


LOS BOOMERANGS
LES BOOMERANGS
DIE BUMERANGE
THE BOOMERANGS
BUMERANGI

By IVAN CIMERMAN


  目次

 @ ユーゴー・ブーメラン
 〓パワフールなやつ
 ≠ 文化的なもの
 ∀哲学する
 ☆満天の星屑
 &ラブ・ブーメラン
 ∂ ポルノ・ブーメラン
 ☆農民の知恵 



小生について

 小生イヴァンは、一九××年××日、世界でも最も美しいスロヴェニア共和国の古都プトゥイの、激流ドラーヴァ川の畔で、父ヤネズ・ツィマーマンと母ルドゥヴィカのあいだに生を受けました。オギャーと生まれたその一年前、アドルフ・ヒトラーはポーランドを爆撃しました。小生の声を聞かなくて残念でした! ドラーヴァ川で小生は、その激流に逆らって泳ぎをおぼえ、プトゥイ城では、伯爵たちの高貴な暮らしぶりにこころ踊らされました。スロヴェニア・スティリアの中心部、スロヴァンケ・ゴリーツァの葡萄畑では、ワインの中のワインとはかくあるものかと、すっかり打ちのめされた気分に浸りました。お城の中庭は、小生たちにとっては、格好の遊び場でした。梨の木にぶらさがってサーカスのブランコごっこをしたり、はしばみのたわんだ樹の上でボクシングのまねごとをやったり、葡萄の木の木陰で三段飛びや、井戸のそばで砲丸投げっこをやったりして、日の暮れるまで遊びほうけていました。

 第二次世界大戦下、学校の校舎はわが連合軍に半壊されてしまったので、小生たちは自分たちの手でそれを再建しました。その後、ユーゴファイル(ユーゴスラヴィアを愛する人)たちによって、小生たちの両親は無理やり、「ボランティア」で、ユーゴスラヴィアの道路やサマク・サラエボ鉄道建設に駆り出されました。それゆえに、「兄弟の調和」から四八年を経て、その校舎は「解放する」――兄弟殺しによって、破壊されてしまったのです。

 修復した校舎で、骨張ったお尻に継ぎはぎだらけのズボンをはいた小生は、生まれてはじめて、文字を書く喜びを知りました。黒板に、「同志」先生を誉めたたえるのではなく、ひやかす詩を書いたのです。いったいほかに、どんなことができましょう。先生はあのスパルタ王メネラオスの妃、美しいヘレネのようではなく、キルカ、そうです、魔女のように見えたのですから!

 背もぐんぐん伸び、たくましく成長した小生は、ほかの仲間が理解できない気風にまで、羽を伸ばしました。

 小生は、さまざまな熟練職人、父からいくらかの才能を受け継ぎました。父と、驚くべき働き者の母の後にのこされたものは、美しいベッドルームと四人のうるさくせがむ子どもたちでした。小生にならって、彼女たちは出版人にあこがれ、そして小生と違って、まともな校正者になりました。小生はモラルなどてんでありませんでしたので、はるか来世から、時折ブーメランを持った幽霊として、彼女たちの前に現われました。

 言葉をもっと磨くために、小生はスラブ語を学びました。そして、人間の魂をより深く探るために、心理学を学びました。ところが、その後、小生はほとんどモノが言えなくなり、続いて目も見えず、耳も聞こえない、「体制精神病」なるものに冒されてしまったのです。

 学業を続けているあいだ、小生の親父の「モルモット」世代のうるさい奴らと、小生の世代の腹に一物ある仲間たちとともに、「多―頭国」に頭を打ちつけておりました。ドンキホーテのごとく、といっても、ロバにまたがったサンチョ・パンサなしに、小生は仮想の敵とたたかっていたのです。

 幸運にも小生は、いっぱしの美しい戦闘員たちとともに、その石頭を叩き割り、そのクズを思慮深い方々にお裾分けしてやりました。

 小生たち、ビート世代は、世界、国家、自己を変革して、一つの友好星の建設を目指しておりました。効果の上がらぬ暗殺はもちろんのこと、数々の無謀な企てなど、もってのほかでありました。奨学金を補うために、小生は税関員、英語代理教師(というのは、その教師がモノが言えなくなったからです)、神話の物語作家、家庭教師、文学アドバイサー、観光冊子のライター、風刺的な出版物やお堅い雑誌の校正係り兼寄稿者として、生計を立てました。

 イデオロギー的に一方向だけを目指した出版社ボレツで、小生は児童向きの定期刊行物「クリルチェク」誌に、文学の夢をあたえようと努力しました。が、それも続いたのは、一カ月くらいでした。

 政府出版物の一書籍販売員として、小生は古典文芸書と一緒に、プロレタリア文芸書や一般書を売り歩きました。冬のコートを、最高司令官チトーに関する五三篇の学術論文(モノグラフ)を売って稼いだお金で買ったのです。それをその後、ボスニア・ヘルツェゴビナからの避難民へ寄贈いたしました。

 一九七一年、小生はドルザブナ・ザロズバ・スロベニエ社の前で、小生の愛すべき詩集『大火災』に火を放ち、そしてその三年後、スラブ諸国の異母兄弟ロシアが、小生の愛しい、黄金でかがやくプラハを占拠したのです。小生たち「ビート世代」は、小さな緑の谷間から、ヨーロッパの心を訴えたい思いで、燃えに燃えました。あれから二五年、独立スロヴェニアは、目下、ヤン・パラチの自己犠牲なしに、小生たちの夢の実現に向かって近づきつつあります。小生の詩集『ビート世代のための詩』と『俺の部族』は、永年の悲願であった、自由と独立を求めた「一九九一年の十一日間戦争」(小生たちは「戦争」と呼んでいます!)の最中、南(バルカン)十字星からスロヴェニアの北斗七星を救うために、小生の「小さな巨人」たちを勇気づけました。

 現在、小生は移民刊行物「ロドーナ・グルーダ」誌の記者兼編集者をやっております。小生は、国境建設者やイデオロギーの拘束服(ストレートジャケット)によってスロヴェニアの巣を離れ、アメリカやオーストラリア、カナダへと海を渡って散って行った燕たちを、彼らの精神的な祖国へ招いております。私たち、残った者たちは、このバルカン闘技場でひたすら耐え抜き、そして時折、冒険的な都市を解放するなどして、ボヘミアン体制内で鍛練しておりました。

 小生は以下の本を出版しました。


詩集

詩集

詩歌集

警句集

短編集

謎解き集

SF風刺詩

短編・エッセイ集



スロヴェニア共和国独立宣言から三年を経て
ルドヴィカとヤネズ・ツィマーマンの息子

イヴァン




 

2008年7月15日火曜日

故国スロヴェニアに帰りて

故国スロベニアに帰りて



14 歳で単身移民として渡ったアメリカ合衆国から、19 年ぶりに故郷スロヴェニアに帰る。アドリア海のブルー、やさしい春の風、旧き良きフォークロアの数々、なつかしい母の姿……。

 1932 年に「ハーパーズ・マガジン」誌に掲載され全米の読者からの大きな反響を得た移民の帰郷物語。原題『The Native's Return Part One: Home Again In Carniola』の翻訳書です。ルビ付きですので、児童でも読むことができます。

 

『故国スロヴェニアに帰りて』
著 者:ルイス・アダミック / 訳 者:田原正三



《電子ブックで読めます》
猫の本屋さん:作品の詳細紹介→購入画面


 祝宴は夕方まで続いた。林檎の花びらが微風にのって、テーブルの上や、客たちの肩に舞った。テーブルの周りは、明るい開放感が満ちあふれ、陽気なおしゃべりが往き交った。囁き声はここでは必要なかった。 
 やがて、村人たちと文学者たちは、愛とワインと美しい自然を織り込んだ、スロヴェニアの国歌を合唱しはじめた。
 「わたしの母もここにいたらよかったのに!」と、ステーラはすっかり感激の面持ちだった。「それに弟も、セレンも、メタも……」アメリカの身内や友だちの名をあげた。
 「ベンと、キリーと、ケアリーも……」私は私で自分の友人を数人あげた。
 歌声がやむと、詩人の一人がグラスを片手に立ち上がった。私たちはみな黙って、詩人の口元に注視した。詩人はこの麗しい午後のひとときを、山から吹きわたるそよ風や満開の林檎の木を、料理を、そしてグラスの中のワインを、表現ゆたか謳いあげ、さらにはブラト村と村人たち、とくに私の父と母に感謝の言葉を述べ、ふたたび村の周囲にひろがる草原や自然の素晴らしさにまで言及した。そして最後に、私のそばに歩みよって、アメリカへ旅立ったころからこのたびの帰郷に至るまでの物語を語ってくれた。私にはもはや返す言葉はなく、感激の涙を押さえきれなかった。
 詩人は結んだ。「さあ、グラスを飲み干そう!」
 グラスが飲みほされ、そうしてみんなして歌いはじめるのだった。 
                                        

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故国スロヴェニアに帰りて-電子ブック(download ebook) 
-Homrcoming Ebook by Noted Immigrant Writer Louis damic
Translation by Shouzou Tahara
Copyright © Shouzou Tahara

About the Author: ルイス・アダミック著 田原正三訳
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「故国スロヴェニアに帰りて」(電子書籍) :
http://www.synapse.ne.jp/saitani/

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